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PSoCを仕事に使ってみたりした

趣味ではじめたPSoCなので,仕事に使うのはちょっと下品かもしれぬ (趣味とは高尚なものです,えへん),と思いつつ, 背に腹は変えられぬ事情もあって,使ってみることにしました. ごくごく簡単な工作ですが,意味は一応あるのです...

さる学会の全国大会というのが ありまして,そこで行なったポスター発表に,件の工作が登場しました.

左側に見えるのは黄色のLED(9灯),真ん中に広げたのは,マンセル色票という “色のものさし”です.「あなたには,このLEDの光が,どのシートの色相に一 番合っているように見えますか?」というのがここでの設問です.この写真,さいわい にもオートホワイトバランスがうまくあっていたようで,だいたい正しい色に写 っています.
シートは左から5Y,2.5Y,10YR,7.5YRという色相のシートです.色相とは,色のも つ三つの属性の一つで,赤,黄,緑,青,紫などの色の種類を表わします.
ふつうの人は,10YRもしくは7.5YRあたりの色相に見えるのですが,ある被験者ST には,5Y(最も左よりのシート)の色相に見えるのです.

被験者ST(って,わたしのことなんですけどね)は,先天性異常 三色型色覚の第二型,というやつで,俗に第二色弱と呼ばれる色覚をもっています. 日常生活ではほとんど問題にならず,たいていの色なら正常者と同等に見分けますし, 同じ色をマンセル色票の中で探せば,同じ場所を指示します.ところが,この黄色 LEDの光では,違う場所を指してしまった...これはまったく初めての経験で, 原因はなんだろう,ということで,調べはじめたわけです.その過程で, LEDを点灯させる道具が必要になり,ごそごそと電子工作をしていた,というわけです.

これは「簡易アノマロスコープ」の第1試作です.まあ要するに,赤緑LEDと黄色 LEDの輝度を半固定抵抗で制御しているだけです.ドライバーが置いてあるのが ご愛嬌 :-) この写真の色は正しくなくて,向かって左の光が黄色LED光,右が 赤緑LED光です.被験者STが見てなるべく同じ色になるように合わせてあり ます.普通の人には,左がオレンジがかった黄色,右がうすい緑ぐらいに見えます.

アノマロスコープ とは,「黄色の単波長光と,赤色の単波長光と緑色の単波長光の混合光の色 とが,同じになるように調整し,そのときの黄色,赤色,緑色の光の輝度の関係 から,色覚異常の種類と程度を判定する」医療用の検査器具です.これはそれと 類似の機能をもつ道具,ということになります.LEDの光がもともと非常に波長 幅の狭い,単波長光に近い光であることから,こんな簡単な道具でも研究の足し になるのです.
本物のアノマロスコープでは,LEDと干渉フィルターを用いて波長幅をより絞込 み,また温度や点灯時間による変化を抑えるため,輝度を電子制御で一定に保つ 機構ももっています.
ここで用いている黄色LEDは,いま流行の,視野角を狭くした高輝度タイプで, 正面から見ないと光が見えません.しかもまぶしい!拡散形のLEDがなかなか お店で扱ってなくて手に入りません. また,ここで用いている赤緑LEDは,なかなかうまく色がひと つに混ざってくれません.やはり積分球を使わないとうまくいかないようです. (積分球とは,複数の光をムラなく混ぜたい時に使う,内側を白く塗った球のこ と.球の内部に導入した光は四方八方に反射し,小さく穴をあけた窓から中をの ぞくと,平均的に混ざりあった光を観察することができる.)

やっとPSoCの登場.「簡易アノマロスコープ」の第2試作です.たいそうな回路に 見えていますが,要は,ドライバで半固定抵抗を回す代わりに,キーボタンで輝 度を制御するというだけです.
正常者が色を合わせた結果と被験者STが合わせた結果とを直接比較できる ように,赤緑LEDが2組ついた構造になっています.
今回工作をしたのは,このLEDの部分だけで,本体は,Invention Board Clone + 液晶,キーマトリックスは,別に作ったものの流用です.7セグは今回使用せず.

LEDはPWMで制御しています.LEDのドライブに TD62003を使っていますが,きっといらないね.
正常者には,左と中は同じ色,右はえらく緑っぽくに見えますが, 被験者STには,右と中は同じ色,左はオレンジっぽく見えます.
第1試作同様,黄色LEDの指向性や赤緑LEDの色むらなどが問題で, 紙で筒を作って光を内部に反射させたり,メンディングテープを 即興の拡散板にする,といった工夫をしました.
プログラムは恐ろしく楽チンで,PWM8を5個起動したら,あとは押されたキーに 従って,デューティー比の変更を行なうだけで,デジタルモジュール が勝手に動き続けますから,割込みで頭を悩ますこともありません. ソースの公開は...突貫工事でとってもばっちいので, もう少し整理できたら考えます.

キーマトリックスの機能割当表です.空白になっている3つのボタンには, 調整した数値を覚えておくためのメモリ番号の切り替えと,メモリ書き込み とがアサインされています.電源投入時に,PSoCのあるピンをHに上げておくと, メモリ書き込み許可モードとなり,オープンにする(pull down してあるので Lになる)と,書き込み禁止モードとなるようにしてあります.

最近の自動車には,ドアミラーに方向指示灯がついているものがありますが,あ れはLED光であることが多いです.一方,車本体の方向指示器はまだ電球+フィ ルタだったりします.普通の人には,この二つの色はだいたい同じ色相の色に見 えるはずですが,被験者STには,かたやオレンジぎみの黄色,かたやうすい緑に 見えます.被験者STと同様の色覚をもつ人は,日本人男性ならば約2パーセント弱, 西欧だともう少し多くいます.
いま,黄色LED光の信号機や方向指示灯などへの応用は,世界的に急速に進んで います.しかし,ここで指摘した問題 --- 社会的に重要なサインの役割りを果 たす色の見え方が人により安定しない --- を解決することは,バリアフリー の考え方が浸透しつつある昨今,望ましいことだと思います.
興味深いことに,黄色LED光に被験者STが合わせた赤緑LED光は,STが見ても正常者が 見ても,マンセル色票の5Yの色相に合う色なのです.逆に,正常者が 合わせた赤緑LED光は,STが見ても正常者が見ても,10YRの色相に合う色なのです. つまり!黄色信号灯に,黄色LEDでなく,赤緑LEDを使ってくれたら,正常者でも でも被験者STでも見え方の変わらない信号になるはず!なのです.

色覚異常についてはたとえばここが 詳しいです.ただし,三色型異常(色弱)の話はあまり詳しくは述べられて いません.

なんか,単にPSoC工作の紹介をするはずが,えらく硬派な内容になってしまった... まあでも,こんな使い方もしている奴もおるのだ,ということで,お許しください.

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