趣味ではじめたPSoCなので,仕事に使うのはちょっと下品かもしれぬ (趣味とは高尚なものです,えへん),と思いつつ, 背に腹は変えられぬ事情もあって,使ってみることにしました. ごくごく簡単な工作ですが,意味は一応あるのです...
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さる学会の全国大会というのが ありまして,そこで行なったポスター発表に,件の工作が登場しました. |
被験者ST(って,わたしのことなんですけどね)は,先天性異常 三色型色覚の第二型,というやつで,俗に第二色弱と呼ばれる色覚をもっています. 日常生活ではほとんど問題にならず,たいていの色なら正常者と同等に見分けますし, 同じ色をマンセル色票の中で探せば,同じ場所を指示します.ところが,この黄色 LEDの光では,違う場所を指してしまった...これはまったく初めての経験で, 原因はなんだろう,ということで,調べはじめたわけです.その過程で, LEDを点灯させる道具が必要になり,ごそごそと電子工作をしていた,というわけです.
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これは「簡易アノマロスコープ」の第1試作です.まあ要するに,赤緑LEDと黄色 LEDの輝度を半固定抵抗で制御しているだけです.ドライバーが置いてあるのが ご愛嬌 :-) この写真の色は正しくなくて,向かって左の光が黄色LED光,右が 赤緑LED光です.被験者STが見てなるべく同じ色になるように合わせてあり ます.普通の人には,左がオレンジがかった黄色,右がうすい緑ぐらいに見えます. |
アノマロスコープ
とは,「黄色の単波長光と,赤色の単波長光と緑色の単波長光の混合光の色
とが,同じになるように調整し,そのときの黄色,赤色,緑色の光の輝度の関係
から,色覚異常の種類と程度を判定する」医療用の検査器具です.これはそれと
類似の機能をもつ道具,ということになります.LEDの光がもともと非常に波長
幅の狭い,単波長光に近い光であることから,こんな簡単な道具でも研究の足し
になるのです.
本物のアノマロスコープでは,LEDと干渉フィルターを用いて波長幅をより絞込
み,また温度や点灯時間による変化を抑えるため,輝度を電子制御で一定に保つ
機構ももっています.
ここで用いている黄色LEDは,いま流行の,視野角を狭くした高輝度タイプで,
正面から見ないと光が見えません.しかもまぶしい!拡散形のLEDがなかなか
お店で扱ってなくて手に入りません.
また,ここで用いている赤緑LEDは,なかなかうまく色がひと
つに混ざってくれません.やはり積分球を使わないとうまくいかないようです.
(積分球とは,複数の光をムラなく混ぜたい時に使う,内側を白く塗った球のこ
と.球の内部に導入した光は四方八方に反射し,小さく穴をあけた窓から中をの
ぞくと,平均的に混ざりあった光を観察することができる.)
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キーマトリックスの機能割当表です.空白になっている3つのボタンには, 調整した数値を覚えておくためのメモリ番号の切り替えと,メモリ書き込み とがアサインされています.電源投入時に,PSoCのあるピンをHに上げておくと, メモリ書き込み許可モードとなり,オープンにする(pull down してあるので Lになる)と,書き込み禁止モードとなるようにしてあります. |
最近の自動車には,ドアミラーに方向指示灯がついているものがありますが,あ
れはLED光であることが多いです.一方,車本体の方向指示器はまだ電球+フィ
ルタだったりします.普通の人には,この二つの色はだいたい同じ色相の色に見
えるはずですが,被験者STには,かたやオレンジぎみの黄色,かたやうすい緑に
見えます.被験者STと同様の色覚をもつ人は,日本人男性ならば約2パーセント弱,
西欧だともう少し多くいます.
いま,黄色LED光の信号機や方向指示灯などへの応用は,世界的に急速に進んで
います.しかし,ここで指摘した問題 --- 社会的に重要なサインの役割りを果
たす色の見え方が人により安定しない --- を解決することは,バリアフリー
の考え方が浸透しつつある昨今,望ましいことだと思います.
興味深いことに,黄色LED光に被験者STが合わせた赤緑LED光は,STが見ても正常者が
見ても,マンセル色票の5Yの色相に合う色なのです.逆に,正常者が
合わせた赤緑LED光は,STが見ても正常者が見ても,10YRの色相に合う色なのです.
つまり!黄色信号灯に,黄色LEDでなく,赤緑LEDを使ってくれたら,正常者でも
でも被験者STでも見え方の変わらない信号になるはず!なのです.
色覚異常についてはたとえばここが 詳しいです.ただし,三色型異常(色弱)の話はあまり詳しくは述べられて いません.
なんか,単にPSoC工作の紹介をするはずが,えらく硬派な内容になってしまった... まあでも,こんな使い方もしている奴もおるのだ,ということで,お許しください.